1998/4 No.11 日本都市計画学会 関西支部だより

西淀川を環境再生のモデル地域に

三村 浩史
関西福祉大学教授
京都大学名誉教授長
公害地域再生センター理事


 トンボをシンボルマークとする愛称「あおぞら財団」((財) 公害地域再生センター)が発足してからもうすぐ一年をむかえる。設立の目的は、公害問題で疲弊した地域の環境を回復し、コミュニティの活性を取り戻すために、調査研究、学習啓発およびまちづくり支援活動を行なうことにある。さしあたり大気汚染、地盤沈下、土壌汚染、自然破壊などの後遺症に悩んでいる大阪市内の西淀川区をモデル地域として多彩な事業をスタートさせている。

 筆者は、1970年代に大阪市内工業地域の土地利用問題で当地を調査したご縁もあって現在この財団の理事をしている。そこで、この機会を得て内容を披露させていただく。

 公害や資源乱用により疲弊した地域の環境再生は、日本各地だけでなく、ドイツ・英国・米国など先進国の旧い工業地や採掘地の跡地地帯などで数多く取り組まれている現代的課題である。社会主義経済が崩壊した旧東ドイツや東欧や旧ソ連でも基地跡をふくめて問題は深刻である。一方、中国とインドをふくむアジアなどの新興工業国では、開発優先のために深刻な公害と地域汚染が激しく進行している。先進国の公害防止技術は高価で導入できない、環境を管理する地域自治の体制も未成熟であるなど、経験が活かされない状況がある。

 「あおぞら財団」は、設立基金を西淀川公害裁判の和解金からの寄託によっているが、環境庁認可の公益法人として、尼崎、水島、川崎など同様の状況にある他地域と連携し、かつ全国さらには世界各地や国連機関とも交流しつつ相互支援できるセンターをめざしている。その上で、西淀川をあらためてモデル事業地域と位置づけている。

 この地域は、淀川が大阪湾に流れこむ自然生態にめぐまれた河口にあって水郷風景の美しい農漁村であった。それが産業公害・自動車公害時代となって風景も環境も一変した。1977年には工業専用地域の拡大指定案をめぐる住民集会に招かれて所見を述べたことがある。区域の40%まで指定しようという案であったが、当時すでに工業開発の伸びは止まり、比較的安価な土地を求めて住宅や小事業所が混在する居住地化が始まっていたから、この案は明らかに読み違えであって結局のところ採択されなかった。しかしながら同じ大阪市内といっても、晴れやかな都心区や話題になる住宅地やウォーターフロントに比べて、西淀川の町の風景は辺境イメージがなお拭いきれないのが現状である。

 そこで、風と土と緑、虫と魚と鳥、人びとの生活と産業、コミュニティの活気が豊かに共生できるよう、住民、事業者、NPO、行政体がパートナーシップを組んですすめる健康環境タイプの新しいまちづくりを構想しようというわけである。すでに、地域住民も参加する水辺環境の学習、原風景の再現、工住混在地域の調査、道路対策の構想提言、公害患者の園芸セラピー、環境庁委託による地球市民大学関西学校の開講などの成果をあげている。

 あおぞら財団は、このように調査研究、学習啓発、まちづくり支援をすすめているが、その進展には、行政体とくに大阪市や西淀川区役所との連携がとても重要となる。すでに、矢倉海岸の自然環境回復や工場跡地などを活用するエコパークづくり、あるいは環境市民大学や学習会へ行政スタッフの講師を招くなど新しい連携が生まれているが、さる2月におこなわれた会談で磯村隆文大阪市長も、財団の趣旨をよく理解され、積極的な提案については、行政としてもできるだけ幅ひろく対応したいと話されたところである。

 現代の都市計画はあらゆる意味でいま大きな転換期に立っている。その目標としたいのは、第一に、地球環境時代にふさわしい健康で持続性のある環境の再生である。第二に、これを地域における自然とコミュニティとの共生の関係として実現することである。第三に、そのために、私的領域と公共領域との中間に新しいまちづくりNPO組織を育てることであるが、西淀川の取り組みは、この三つを総合する意味でもモデル事業に値すると思われる。


あおぞら財団((財)公害地域再生センター)へ のお問い合わせは:
〒555-0013 大阪市西淀川区千舟1-1-1 三洋ビル4階
TEL 06-475-8885FAX 06-478-5885



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