1998/4 No.11 日本都市計画学会 関西支部だより

視点
時間軸の中に都市を見る

鳴海 邦碩 大阪大学


 都市づくりにおいて考慮されなければならない主要な側面として、空間と人間、そして時間がある。時間といってもその次元はさまざまで、環境問題などは地球史的時間でとらえなければならないし、現実の都市における人や物の移動は、現時間的な時間地理の領域として考えられなければならない。
 都市と時間との関係は、このようにさまざまな次元でとらえられるが、空間と人間そして時間が絡み合って生み出される力を、私は<都市の慣性力>と呼んでいる。それは物的な空間そのものの存続性や生活の連続性、土地所有権などの継承性などによってもたらされる。このような都市の慣性力に着目した環境デザインの考え方が、コンテクスチュアリズムであるといえる。
 
■都市の慣性力
 <都市の慣性力>はどこででも働いているが、とりわけ日本都市に特徴的な木造市街地で、こうした慣性力にどのように対処すべきかが重要な課題になっている。木造市街地の類型としては、<町家で構成される近世的な市街地><伝統的な農村や漁村集落><近代のスプロール市街地><近代的な街区内に形成された密集市街地部分>があり、その実態にあわせて、歴史的な環境として考えるか、既存不適格な環境としてとらえるか、といった環境整備上の課題に直面している。
 
■育む環境
 都市づくりに関連して、もう一つ時間の重要な側面がある。それは<育んでいく環境>という概念である。環境は、人びとによって手が加えられることによって愛着のもたれる環境になり、時間が磨きをかけることによって味わい深さがでてくる。しかし、今日造られる都市環境の多くは、完成した時が最良で、時間と共にくたびれていくという性質を免れていない。このことも取り組むべき重要な解題としてある。
 
■人間のふるさとしての環境
 アイデンティティの喪失感というのがある。これが高じると強いストレスが生まれるが、ノスタルジーもその一つの症状である。これは昔スイスの若い傭兵に発見された一種の病気で、治療法は故郷へ戻すしかなかったという。都市の時代となった今日、故郷に限らず歴史的な環境や自然、芸術がもたらす環境もまた、ノスタルイジーを癒す環境として認識されている。これらは人間の根源でもあり、大いなるふるさとと呼べるものである。このような環境を都市はそなえなければならない。
 
■歴史的な環境
 人類は、時間を測定し時間を計算し、時間を人間の活動の中に詳細に組込む技術を身につけるにいたった。その一方で、抽象的な時間概念を喪失している。その結果、建築はいずれ建て替えられるべきものとして建てられ、永遠に存続する建築への希求を失ってしまったように見える。
 新しい建物が建てられる時、「伽藍が白かった時」がよく引合いにだされるが、今の多くの建築はそもそも「白い伽藍」にはなりえないと思う。それは原価償却という、時間に関連したシステムにも由来している。とすれば、現存する歴史的建造物以外には、本来的な歴史的建造物はこれから生まれない可能性がある。
 かっては、歴史的建造物の復元には否定的な考えが主流を占めていたが、近年、復元が一つのブームになりつつある。復元されたものはいずれ新たな歴史的建造物となる可能性をもっているが、この問題も大きな問かけとしてある。
 
■環境のあるべき姿
 風景として<いいな>と思う環境には、環境のあるべき姿が示されていると思う。自然と人工物とが、あるいは歴史的なものと新しいものとが、互いにそのあり方を見つけ合っているからこそ、いい風景になっているのである。その意味で風景は、その文明の真の姿を表わしていると思う。そうした風景づくりに失敗すれば、歴史的な環境はやせ細ってしまい、ひいては、日本の文明の基盤を脆弱にすることにつながりかねない。
 
 関西の各地域ではさまざまな都市づくりが展開している。そのような具体的な事例の中に、時間軸の中の都市をみていきたいと思う。そのことが都市の質を考える手掛かりになるのではないだろうか。



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