1998/10 No.12 日本都市計画学会 関西支部だより

小特集
京都市梅小路公園「いのちの森」

森本 幸裕 大阪府立大学農学部


 京都駅から歩いて15分、かつてのJR操車場が京都市の梅小路公園に生まれ変わった。面積10ha余りで、ゆるやかな地形が印象的な芝生広場と日本庭園、それにエコロジーパークとして整備された「いのちの森」からなる。いのちの森は都心にもともとの自然をとりもどそうという、いわゆる復元型のビオトープである。ここは東、北、西の三山からもっとも遠い位置にあって、京都ではもっとも非自然的、非生物的であった空間である。いま、各地で「ビオトープづくり」が盛んに行われているが、これほどなにもない都心に、まとまった生き物主体の空間が整備されたのはたいへん画期的である。

 ふつう、公園緑地は市民の利用が大前提だが、ここでは、むしろ生物が主人公の空間であって、人間の方は控えめに観察させてもらうだけという奇妙な場所である。そのために、日本庭園入園料を支払った方だけが入園できるように整備され、厳密に観察園路を設定し、単なる通りすがりの利用はできない仕掛けとなっている。空中の林冠を散歩する樹冠回廊はなかなか好評である。

 しかし、自然の復活といっても、もともとの自然とはいったいなになのか。どのように設計すればいいのか。うまく施工できるのか。それから、はたして自然性が回復していくのだろうか。ビオトープづくりなるものは、コンセプトばかり先行して、中身と実態については心もとないのが現状である。

 私はここを管理する都市緑化協会からの協力依頼に応じて、モニタリングをボランティアグループを組織して行っている。すると、あっとおどろくめずらしい生き物がやってきているのがわかったり、たいへんダイナミックに遷移する状態など、生き物のドラマが見えてきて、とても面白い。また同時に、自然回復の観点からは、設計や施工の面でいろいろと問題点があることもいろいろわかってきている。

 そのひとつはツキヨタケ事件である。深山幽谷に生えるキノコが町の真ん中に出た、というので専門家もびっくり。調べてみたら、なんと持ち込まれた枯れ木はイヌブナであった。街路樹ケヤキの移植の際に枯死したものの材を持ち込むはずが、どこでどう間違ったか、真相は闇の中である。しかし朽ち木を持ち込むというのはこれまで通常の造園植栽では行ってこなかったが、土壌動物やきのこ類にとってたいへん意味があるし、さらに樹木のマルチングの効果も果たしているなど、重要な環境形成作用があることに気づかされたのは大きな収穫であった。

 そのほか、野生のツツジのはずが八重のきれいな花をさかせたり、セイヨウシャクナゲやツタンカーメンのエンドウの持って行き場がないということで持ち込まれたり、というご愛敬もあるが、基本的には森と池、流れというハビタットを整備し、京都にふさわしい主要な植物を導入し、動物はやってくるのを待ち、生物多様性の観点から、偏向遷移対策など最小限の管理を行うというような方針で推移している。

 しかし、地価の高い都心で、しかも有料区域として、どのように利用者に見てもらうのか、ということは協会の大問題となっている。日本庭園に隣接しているので単に手入れの悪い庭園もどき、とも見られるのである。そこで、ホタルをいれようとか、カブトムシはどうだろうとか、きれいな花を植えてお客さんに来てもらおう、という声がでてくる。

 これは要するに公園としては利用者をひきつけるスターが要るということである。しかし、われわれが協力した、いのちの森での自然観察会では小さな花や虫、きのこでも、たいへん市民に好評なのである。つまり、こうした自然は情報つきで見てもらうことがぜひとも必要なのである。「これ、日本ではじめて大発生がここで記録されたニッポンアカヤスデです」とか、「これ、日本で3例目のキノコです」とか、「いま植物は255種あって、絶滅危惧種も生息しています」と言えば、感心しない人はいないのである。この情報付き展示を常にどのように仕掛けていくか、公園としては大きな課題だと思う。

 なお、モニタリングのレポートご入用の方はホームページをご覧下さい。
 ↓
 http://rosa.envi.osakafu-u.ac.jp/biotope/




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