1999/4 No.13 日本都市計画学会 関西支部だより

特集
ユニバーサルデザインについて

三星 昭博 近畿大学理工学部土木工学科教授


1.バリアフリーデザインとユニバーサルデザイン
 バリアフリー(障壁を取り除く)の目標は、差別や偏見などの心のバリア、階段や段差等の物的バリア、情報等のバリア、法律や社会の仕組みなどの制度等のバリア、を取り除き、誰もが利用可能な都市環境を造ることにある。具体的には、エレベーターの整備、車いす専用のトイレ、段差解消や視覚障害者誘導用ブロックの敷設等があるが、これらのデザインは、障害者専用のものからスタートした。その結果として障害者しか利用できないものと、健常者を含む多様な人にも利用できるものが混在した形で整備が進んできた。ユニバーサルデザインは、こうした障害者しか利用できないものをできるだけ少なくし、すべての人が利用できるように都市環境を変える設計思想である。
 ユニバーサルデザインを提唱したロナルド・メイス1)の考え方は、特別な調整を行うことなく、あらゆる年齢・体格・障害の度合いにかかわらず、誰もが利用できる製品・環境を創造することであり、しかも低いコストで美しいことや、知恵の結集とアイデアを出す姿勢がそのコンセプトに含まれる。

2.ユニバーサルデザインが登場した背景と意味
 ユニバーサルデザインがでてきた背景は、米国の1940年代のポリオの流行や戦傷者の増加により障害を持つ人が増加し、その結果アクセス権を保障する動きが強まったことである。1980年代はじめ、米国ではユニバーサルデザインの有用性を説明するために、アクセシブルデザインという言葉が使われていた。それは当初、「すべての人が理解し、利用しやすい環境を創造する」という含みがあったが、福祉分野のノーマライゼーション思想(身体のハンディにかかわらず等しく通常の生活を送ることができること)の流れの中で「身体障害者のために環境を整備する」という意味に特化していった傾向も否めない。つまり、本来ユニバーサルデザインとは、特別な人だけに役立つスペシャルデザインではなく、すべての人に利用できるデザインへを意味する。ユニバーサルデザインはバリアフリーデザインの深化であり対立概念ではない。したがって、バリアフリーデザインを否定した形でこれがユニバーサルデザインであるなどと述べることはできない。
 道路・交通設計においては従来、安全性、快適性、利便性が基本要素とされてきたが、バリアフリーの流れで、アクセス可能性、利用性(ユーザビリティ)、情報性などが追加された。ユニバーサルデザインを指向するならば、当面それに加えて、「主動線性」、「経済的合理性」などをあげたい。これらをあげる理由は以下である。土木技術者の間で「バリアフリー」は設計の基本というより、単に付加オプションであったり設計条件であったりして、設計における最適化のための目的要素としてとらえられていない傾向がある。いいかえれば、最適設計からみればバリアフリーは拘束される負の要因ととらえられがちである。この現状を乗り越えて、バリアフリーを目的変数に加え、計画者・設計者の創意工夫を幅広い観点から求める標語としてユニバーサルデザインの今日的意味がある。
 このように考えると、我々土木の設計者にとって、本質的には「設計する」ということとユニバーサルデザインは同義語のようにみえるが、実際の現場の設計思想としては重大な方法の変化を含んでいる。ユニバーサルデザインは、論理的につぎのような傾向を否定する。全国一律の基準に頼り、単に示法書・設計基準・ガイドライン等を満たし、利用者の細かい差異など知らぬまま、従来の習慣で、コンピューターに頼り切る経験主義的設計者はいらないということである。筆者が参加している建設省の歩行空間ガイドラインづくりの中でもその点を特徴にすべく努力をしている。

3.筆者のユニバーサルデザインの経験
 これがユニバーサルデザインであると形態的に明示することは難しいが、そのベクトルを筆者らが当初からそれを意図して設計した二つの事例で説明したい。
神戸の海側玄関口メリケン埠頭中突堤に新しい船客ターミナルが平成10年3月に駅前広場を含め竣工した。設計の当初でユニバーサルデザインを志向することにした。その特徴は以下のようである。
@
ターミナル内外の歩行動線を複雑にせず単純明快なものにした。それを主動線と呼び、中心にエレベーターと階段を据えた。エレベーターは出入口が同一方向のもの(ウォークスルー)を用いてすべての人の方向回転をなくした。同時にシースルーとしたがこれは美観と方向感覚を失わないことを両立させるためのものであり、コストは多少増えたが施設内の雑然とした案内設備を減らす目的もあった。
A
海側への出入口は健常者と障害者用の区別を行わずに、十分な幅のゆとりをもち、すべりにも十分配慮したスロープを用いた。通常なら階段とスロープを併用したくなる空間であるがあえて主動線で統一した。
B
周辺と調和のとれるデザインをめざした。歩行環境とバリアフリーについては周辺部全体を整備した。
 同様の事例として平成10年11月に復興した阪急伊丹駅および平成12年に完工予定の駅前広場の特徴について述べる。
@
エレベーター、エスカレータ、階段の3つを主動線とし、吹き抜けの空間で位置をわかりやすくした。エレベーターはこのクラスとして用いられるものより大型の15人乗り、21人乗りを2基配した。
A
駅舎部分のバリアフリーに努め、とくに情報性を重視した。
 この二つの事例ではいずれも当事者参加の委員会を作り、事業者が主体的に計画と設計にユニバーサルデザインを取り入れる姿勢を持った。いずれも、バリアフリーを基本としながら多くの人が同時に受益者となることを目指した。

4.まとめ
 雑誌FRONTにおいてユニバーサルデザインの特集が行われた。この特集で、多木はユニバーサルデザインの概念について「本当にデザインとしては緊急の課題であるバリアフリーを隠蔽しかねないものになる。空疎な言葉にはかならず社会的な嘘があるものである」と述べている4)。筆者は多木のユニバーサルデザインに対する見解に同意しないが、そこで述べている実践的危険性については留意する必要があると考えている。
 筆者なりに都市空間におけるユニバーサルデザインの当面のコンセプトをまとめてみると以下のようになる。
@
車いすや視覚障害者だけでなく、聴覚障害者、内部障害者、高齢者、妊産婦、来街者、外国人などできるだけ幅広い人にサービスする設計
A
通行性はもとより、情報性、アメニティーなど多元的な評価要素に配慮した設計
B
資源・環境・景観・風土・歴史などにも幅広く配慮した設計
C
市民参加を積極的に取り入れ、技術者の独断と思考停止におちいらず、関係者の創意と工夫に満ちた都市設計
D
コストについては、時間的・空間的・総合的にパフォーマンスの高い都市設計
となろう。
 本稿は、雑誌「交通工学」(交通工学研究会)(1999.3)のユニバーサルデザイン特集の総論に手を加えて再構成したものである。なお、構造設計分野はユニバーサルデザイン思想と無関係なのであろうか。興味あるテーマであり他の機会に議論したい。

(参考文献)
1) ロナルド・メイス,ユニバーサルデザイン創刊号,1998年
2) 古瀬敏編著、ユニバーサルデザインとはなにか,都市文化社,1998.5
3) Edeted by Welch,Strategies for Teaching Universal Design,Adaptive Environments Center pp.1〜12,1995
4) 多木浩二,ユニバーサルデザインに物申す,FRONT,1999.2
5)
神戸港中突堤アメニティーターミナル整備検討報告書,中突堤アメニティーターミナル整備検討委員会・(財)交通アメニティー推進機構,1996.12
6)
阪急伊丹駅アメニティーターミナル整備検討報告書,阪急伊丹駅アメニティーターミナル整備検討委員会・(財)交通エコロジーモビリティー財団,1998.3



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