1999/9 No.14 日本都市計画学会 関西支部だより

人と仕事
21世紀のインナーシティにおけるまちづくり−日本型サステイナブル・コミュニティの模索−

和田 真理子 (神戸商科大学商経学部助教授)


 都市計画学会関西支部の編集・広報委員をさせていただくことになって3か月ほどになりますが、最初の仕事で原稿が割り当てられることになりました。そうか、学会の編集委員の仕事というのは、いざとなったら自分が原稿を書くことだったのか…と思いつつ、「人と仕事」という偉そうなテーマで何を語ればいいのか、いささか面食らっています。とはいえ、私のような若輩者がこのような場を与えられることは有り難いことです。私は地理学の出身で、地理学界では都市計画の人だと思われ、都市計画学界では地理の人と思われているという正体不明の存在ですから、この機会に自分の研究について若干展望し、存在をアピールしようかと思います。

 私はこれまで、大都市インナーシティ、特に住工混在地域のまちづくりという地味で重いテーマに取り組んできました。住工混在地域は、前世紀からの過密・公害、今世紀後半のインナーシティ問題と、成立期から都市問題に悩まされており、テーマとしてはやや古くささを感じられる方もおられるのではないでしょうか。しかし今日、環境共生、サステイナビリティといってキーワードから21世紀の都市像を展望する際、極めて積極的な意義を持ちうる地域だと考えています。

 アメリカでは、コミュニティのアイデンティティ、自然との共生、省資源、自動車の利用削減、ミックストユースなどを特徴としたサステイナブル・コミュニティの建設が試みられています。しかし、低密度で農村的なコミュニティを新規に開発するだけでは限界があります。サステイナブル・コミュニティを建設するために郊外を開発して自然を破壊するというようなことがあってはならない。このことは国土の狭い日本であれば、もっと重要です。既成市街地の資質を活かし、修復によってサステイナビリティを実現することを考える必要があるでしょう。また、農村的で緑豊かなことは一つの理想ですが、理想はそれだけではありません。都市居住の伝統があるわが国では、都市的ライフスタイルを享受できることは居住地として大きな魅力の一つです。こうした点から、農村的で低密度なアメリカ型に対し、都市的で高密度なサステイナブル・コミュニティを模索する必要があるわけです。これにも都心居住型と下町居住型とでも言ったらいいのか、2通りありそうですが、緊密なコミュニティ、ミックストユース、職住近接といった資質をもつインナーシティが後者のモデルとなると考えています。

 具体的なまちづくりにあたっては、住工の調和的共存を目指す、以前から都市計画が手がけてきた方策が重要であることはもちろんですが、持続可能な経済活動を維持発展させるために、これからは産業政策としての役割を意識する必要があります。地域産業の高度化で住機能との共存がしやすくなり、産業政策と都市計画が一体となる素地は次第に熟成されてきています。さらに、これからの地域産業の存立基盤を考えると、「共存可能」というだけでなく、町並みの美しさや快適性が産業にとって積極的な意義を持つことになるでしょう。優秀な人材を惹きつけるという意味はもちろん、高級化・多様化する需要の中では、新製品を産み出すための異業種交流や、生産者と消費者との直接的な接触が不可欠ですが、いずれも人の来訪を伴うものです。

 日本型サステイナブル・コミュニティのあり方を模索していくと、都市計画も産業政策も従来の枠の中にとどまっているわけにはいきません。そういうわけで、私はこれからもますます、地理学、都市計画、経済学などなどをまたにかけ、いい意味で正体不明であり続けなくてはならないのでしょう。




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