2001/1 No.15 日本都市計画学会 関西支部だより

特集
21世紀都市の寸描

青山 吉隆 京都大学


 あれほど賑わった21世紀論も1月を過ぎると少し静かになってきた。西暦はキリスト教圏の話であって、仏教圏とは関係ないとはいっても、世界中で最も多く使用されている年号であることは確かで、結局、誰が決めたわけでもないのに、それが事実上の標準 de facto standard になる。企業にとっては、自社の製品、技術、サービスがデファクト・スタンダードになれば、莫大な先行利益が期待できるから、意図的に戦略を立てる。これは市場メカニズムを通しての競争を経て勝敗が決まるから、その過程において、技術革新やサービス向上が期待できる。デファクト・スタンダードの確立には幸運と戦略とが必要なようだ。

 わが国の都市は全国どこへ行っても規格品のように似ているが、これはもちろんデファクト・スタンダードでは無く、むしろ正当な標準 de jure standard によるものである。それはよく指摘されるように、都市計画に関する全国共通仕様の中央集権制度の産物であり、この制度が地域それぞれが持っていた風景、風土、文化、歴史などの個性を無くしてしまうのに十分に効果的だったことを意味している。一方、ヨーロッパの都市を鳥瞰すると、家々の屋根や壁の材質、色、高さが統一され、都市全体が周辺の自然と調和して美しい個性的な風景を造り出している。いわゆる絵になるのだ。ところが日本の場合、全国共通仕様でありながら、いやそれ故にか、部分的に美しい空間はあっても、全体としての都市の鳥瞰図には統一感のある美しい風景は見られない。わずかに地方小都市に灰色の瓦屋根の木造集落が残存しているがそれも少なくなっている。それだけが理由ではないが、日本にない都市美を求めて毎年多数の日本人観光客がヨーロッパを訪れている。逆に、日本への外国人観光客数は世界第32位の約400万人で1位のフランスの16分の1にすぎない。おそらく都市美を見に来る外国人は皆無ではないのだろうか。ついでに日本の都市計画を視察にくる外国人研究者の数はどれほどなのだろうか。21世紀、まだ木造低層住宅の多い都市では、制度さえ整っておれば、同じコストでヨーロッパ並の都市美を創造する可能性はゼロではないだろう。地方分権後の課題である。

 都市の誕生には明らかに、肥沃な土地を求めて集落が形成され、交通の要衝に市が発達するといった比較優位な条件が必要であった。しかし個々の都市が他地域との競争に勝って成長発展していった過程おいて、各都市独自の計画戦略があったし、また同時に、何らかの歴史的偶然も影響した。都市計画は重要な戦略であるが、当然、それだけで都市の成長あるいは衰退が生じたわけではない。外部環境の変化が影響する。

 特に情報化、国際化、高齢化、少子化が猛烈なスピードで進展しつつある日本では、都市の比較優位な条件は急速に変化するだろう。たとえば、情報の交換が極めて容易に安価に世界規模で可能になってきたため、従来の都市が得意としてきた効率性の機能がその存在価値を失いつつある。高齢化社会においては、住宅立地、消費者行動、都市施設需要などは様変わりするだろう。少子化にともなう人口減少は土地の需給関係に影響し、土地は余るかもしれない。こうした様々な状況の不確実性を前提にすると、これから始まる世界的な都市間競争の中で、都市づくりの意思決定には大きなリスクを伴うことだけは確かなようだ。急速な変化への対応には、中央集権でなく、現実を熟知した都市に裁量をもたせる地方分権のほうが、意思決定は早く、的確になるはずだ。住民参加が必要なのは言うまでもないが、参加へのマニュアルを中央に頼るようなことがあってはならないだろう。

 ITが21世紀初頭の都市に及ぼす影響は計り知れないと思われるが、今のところだれもその姿を描くことができていないし、できるとも思えない。ITが造り出すサイバー空間では、距離の時間的・費用的な概念はなくなり、情報の受信・発信に関する技術的な地域格差はなくなると言われている。しかし、携帯電話に見られるような私的な情報の発信・受信は別として、付加価値のあるコンテンツをもった情報を生産・発信し、この情報を受信・消費するためには、発信と受信の双方において、知的資源の集積が必要である。この知的資源の集積地はサイバー空間上では場所を選ばないが、実空間上では、人と物とを集積する以上、距離概念はなくならない。現在のところ知的資源は大都市に集積しているが、「知」の内容の変化のスピードは極めて早い。21世紀の知的資源としての人材はどのような都市を好んで群れるのか。関西はこの人材を集積できるだけの比較優位を、世界的都市間競争の中で造り出すことができるのか。そのために都市計画は何ができるか。




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