2001/1 No.15 日本都市計画学会 関西支部だより

特集
都市計画の枠組みを変えなければならない

鳴海 邦碩  大阪大学


1. 1995年震災の復興から学ぶべきこと
 21世紀の都市計画のために、震災復興は多くの乗り越えるべき課題を提供した。復興は生き生きとしたまちの復興を目指すべきであるのは当然のことであり、多くの努力がそれに向かってなされたのは確かではあったが、「都市計画」の動きははあたかも恐竜のようであった。
 「都市計画」も含め、復興計画はいかにあるべきだったかを、その後も様々な観点から考える機会があったが、その過程で、長年、途上国援助の方策の研究を行ってきたハーヴァード大学のアマルティア・セン教授の次の様な考えに出会った。
 セン教授は、人がどんな財を手にいれたかとか、その財からどれほどの効用を引き出しているかといった情報に基づいて分配の正義を決定するのではなく、関係者がどんな生き方を選びかつそれを自らどう評価しているかといった福祉情報を最優先して決定されなければならない、と述べている。つまり、単純な公正論、公平論ではなく、人間がもっている〈基本的潜在能力〉こそが、平等・不平等を判定する、尺度にならなければならないというのである。
 「都市計画」は権利や税に関わる事項であり、公正論、公平論にのっとるべきことは当然である。しかし、上の考えに沿えば、もっと人間の尺度で対応しなければならない、ということになる。つまり、「人間の顔をした都市計画」、これが21世紀の都市計画が目指すべきところの基本であると考える。

2. 都市計画からまちづくり都市計画へ
 昨年、兵庫県の都市計画担当の方々の参加を得て、「21世紀の都市計画の課題」をテーマにしたセミナーが主催で行われ、そこである団体の新しい都市計画の段階として、「まちづくり都市計画」に関する問題提起があった。つまり、「人間の顔をした都市計画」の新たな枠組みの必要性についてである。
(このセミナーの概要は、http://web.kyoto-inet.or.jp/org/gakugei/judi/semina/s0002/index.htm 参照のこと)
 新たな都市計画の枠組みについて、十分にここでは議論できないが、いくつかの関連するだろう事項についてランダムではあるがふれておきたい。
  • 現在の都市計画は市民が理解できるような目標像を 示し得ているか?あるいは、どのような都市空間ないし、都市環境が形成されるべきか、十分議論され理解されているか?
  • 公的な事業と連携した民間のあるいは市民的な事業が展開できる条件が整っているか?
  • 右肩上がりの条件で都市整備を展開することが引き起こす問題について、十分に議論され、あるいは方向転換の可能性が検討されているか?
 これらの点に関連して、英国のある都市計画家が 述べている次の文章には示唆されるところが多い。「どこの大学の都市計画の講義でも教えない、都市づくりと経済との関係の重要性が理解されなければならない」。
 ここで述べられている経済とは、グローバル経済や事業の採算性のことではない。どのような空間づくりが、ローカルな資本の生き生きとした経済活動を引き出すことができるのか、ということについてである。また併せて、多くの多様な主体を、都市づくりに結び付ける工夫の必要性をいっている。

3. 都市づくりの目標像
 近年、欧米において論じられている都市の目標像には一種の共通点が見られる。それは、古くから存在する都市、ないし街に学ばなければならないというものである。古い街には、もちろん問題を抱える街もあるが、多様性に富んで賑わいにあふれている街が多い。これに対して、活力に溢れている新しい街がはたしてあるだろうか、という認識である。EUが公表した新アテネ憲章もこの路線に従ったものだし、USAのニューアーバニズムの考え方もこれを基本としている。
 科学技術とりわけ情報技術の進歩が社会にもたらす影響は極めて大きく、都市もまたその影響を受けることは疑いないところである。しかし、人間にはハイテクと同時にローテクが必要であり、未来と同時に歴史が必要である。このローテク的あるいは歴史的な領域を環境の中にどのように位置付けるかも重要な課題である。

4. 古典的な課題の新展開
 環境問題に対応する都市づくりが目指されなければならないが、市街地の拡大を抑制し、自然環境や農地を保全することは、将来においても重要な課題である。また、自動車の無制限な利用拡大の方向もまた抑制される必要がある。
 USA において、適切な成長(smart-growth)のために都市成長境界(Urban Growth Boundary)の設定などに取り組む都市が増えつつある。これは都市計画の古典的な手法であるゾーニングの延長線上にあり、日本でもこのような対応は必要である。とりわけ交通に着目した立地ないし開発誘導が、都市計画の重要な課題の一つになるものと考えられる。



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