2001/1 No.15 日本都市計画学会 関西支部だより

特集
ヨコ社会への転換と都市計画

丸茂 弘幸  関西大学


 企業における容赦のないリストラや教育現場における学級崩壊、nLDK型の住宅プランを無効にしかねない核家族の解体など、世紀の変わり目に来て日本の専売特許とされてきたタテ社会のタテ糸がいたるところでほころびはじめている。個人主義と契約精神の根づいた欧米のヨコ社会と異なり、集団のウチとソトを峻別しつつウチにおける上下の秩序に依拠してきた日本のタテ社会にあっては、ヨコ糸はもともと名ばかりで頼りにならないから、タテ糸がほつれてしまうと社会は砂粒のようにバラけてしまう。タテにもヨコにも支えをもたない人々がいま不安と苛立ちをつのらせてきている。

 都市計画は地域におけるさまざまな空間や活動の関係を相互に調整する技術であり、その意味で社会のヨコ糸を紡ぐ職能のひとつである。この技術の定着を頑強に拒んできたのが日本のタテ社会であったとすれば、タテ糸のほころびは都市計画にとって歓迎すべきことであるかも知れない。実際、地方分権への最近の一連の動きは国と地方の関係をタテからヨコの関係に移そうというものであり、住民参加、官民協同の都市計画なども、官と民の関係をタテからヨコに変換しようというものである。ボランティア、NPO活動等の活発化は、民と民とのヨコの関係を築こうとする潮流を示している。これからの新しい都市計画の存立基盤をなすはずのこれらの一連の動きは、タテ糸のほころびと密接に関連しつつ進行しているとみることができる。

 しかし都市計画にかぎらず、社会のさまざまの分野でヨコ糸が十分に発達し整備されるまでには多くの曲折が予想され相当の時間がかかるであろう。それまでの間、いまがまさにそうであるように、タテ糸が支えてきた秩序の崩壊ばかりが際だつ不安定なカオス状態を社会は経験することになる。この長期にわたるかも知れない不安定状態を、いかに破局を迎えることなく乗り越えるかが問題である。これをうまくしのぎさえすれば、おそらく欧米にも劣らない程度に都市計画が機能するヨコ社会が実現するだろうと密かに期待しているのだが。

 不安定なカオス状態が長期化することで最も危惧されるのは全体主義の台頭である。ハンナ・アレントは『全体主義の起源』のなかで、人と人の関係が砂粒状に解体された第一次大戦後のドイツの社会状況を全体主義台頭の背景的要因のひとつとして分析している。災害救助訓練に名を借りて自衛隊の装甲車が銀座通りを行進する昨今である。欧州においてもネオナチの台頭が著しいと聞く。昭和・明治平行説を援用しつつ、現在はすでに戦前なのだと大澤真幸はいう。20世紀の後半の日本を、戦争に巻き込まれることからともかくも守ってきた日本国憲法は、世紀末の有事関連立法によってその効力を実質的に失ったともいわれる。周知のように石田頼房は『日本近代都市計画の百年』のなかでわが国の都市計画がいかに都市計画外的要因によって翻弄されてきたかを克明に描いている。21世紀のいつか、都市計画家が再び戦時下都市計画、戦災復興都市計画に動員されるような事態が絶対に来ないと果たして言い切れるだろうか。

 こうした危険を回避するためにも、社会の安定化のためのヨコ糸の構築が急がれる。今後右肩上がりの経済社会の発展を前提にできない以上、豊かさとともに貧しさをも共有できるような社会システムを築かなければならない。貧しさの共有が豊かさの共有以上に難しいことをホームレスの急増はよく物語っている。しかしすでに見たようにヨコ糸を紡ぐ動きはすでにさまざまな形で始まっている。都市計画という分野においてもこの動きを確実なものとし、また加速する努力がなされねばならない。

 ヨコ糸を紡ぐ作業は多岐にわたるが、官民の人的交流を活発にすることもそのひとつである。地方分権下の自治体において高度の専門知識を有する人材の確保が急務になることはいうまでもない。自治体プランナーと民間プランナーとの人的交流を促進することはこのことからも重要である。

 国家公務員につづいて地方公務員についても期限付きの雇用を可能にする制度が準備されつつある。欧米においては常識化しているように、都市計画分野で、官と民の垣根を低くして人的交流を活発化することがいかに重要であるかは、これを実践した飛鳥田市政下における横浜市が、この分野の発展に果たした貢献の大きさを考えても明らかであろう。

 「タテ社会」の概念の提唱者、中根千枝が指摘するように、「場」を強調するタテ社会に対して、「資格」を重視するのがヨコ社会である。プランナーという専門家集団がまず存在し、時と場合に応じてある者は自治体に身を置き、ある者は民間に身を置いているのがヨコ社会におけるプランナー像である。日本がいまタテ社会からヨコ社会への歴史的な転換期にあるとすれば、地域社会のヨコ糸を紡ぐことを職能とするプランナーこそ、ヨコ社会化の先兵となるにふさわしいであろう。




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