2001/1 No.15 日本都市計画学会 関西支部だより

特集
生命力あふれる都市像の構築 −住環境の改善・充実を通して−

三好 庸隆  PPI 計画・設計研究所


 都心を移動する機会を利用して人々の表情を伺う。海外を旅した時、その国の歴史や文化、さらにそのときの生活の豊かさを、行く先々で出会う人々の表情から直感的に窺い知るような経験をすることが多い。そのような眼差しで、年末に人々の表情に触れたとき、もちろん確たる根拠や指標を持つ訳ではないが、いまひとつ〈豊か〉でない、いやむしろ〈貧相〉な気さえする。若者にも、生き生きとした生気が感じられない。

 もっとも今の景気は、政府の公式見解とは異なり、誰に聞いても〈最悪だ!〉という。そのことが表情に反映されていると、言えなくもないが、私がここでいう〈豊かさ〉とは、もちろんもっと生命力とでもいうべきことにかかわる根源的な〈豊かさ〉についてであ る。戦後およそ55 年に渡り、営々と積み重ねられてきたはずの、〈社会づくり〉、〈都市-まち-づくり〉、〈すまいづくり〉の結果が、人々にそのような表情を強いていると考えるのはペシミスティックすぎるであろうか。このように考えると〈都市計画〉サイドから、微力ながらも、頑張らねばならない課題は多い。

 21 世紀の都市計画を展望するうえでのキーワードとしては、人口減少社会、高齢社会、地方分権、情報技術(IT)化*1 、国際化、地球環境問題の深刻化、環境共生型都市などをあげることが出来る。いずれも重くうけとめるべき前提条件である。なかでも数年後には確実に到来する〈人口減少社会〉は、空間を扱うことの多い〈都市計画〉にとっては大きなパラダイム転換である。単純化して言えば一人当りのスペース(土地)が大きくなるわけであり、新たに土地を開発していくということよりは、今ある枠組(市街地)を、いかに充実させていくかということにエネルギーがそそがれるべきである。そのような意味から、21 世紀の少なくとも前半は、都市・建築分野にとって〈身近な住環境の改善・充実〉が最大のテーマとなろう。

 しからば、そのテーマにどのようなスタンスでアプローチするか、ということが次に課題となる。20世紀は、極論すれば供給者側の論理、即ち行政サイド、専門家サイドからのアプローチ、プログラムの組み立てが中心であったと理解することが可能と思われるが、それに対して、21世紀前半を象徴的に述べれば、需要者側、エンドユーザーとしての市民サイドからの論理の組み立てをベースに、〈身近な住環境の改善・充実〉への徹底した取り組み、知恵の集積が必要とされよう。ここで専門家サイドとしては、市民の考え、思いをいかにして顕在化させていくか、そしてそれをどのようにしてコンセンサスある考えとしてまとめていくか、次に、その考えを、どのようなプロセスで計画に落し込んでいくかといったことが、課題となる。これは、すでに〈市民参加型まちづくり〉として、先進的な自治体、プランナーによって多様な試みが行なわれつつあるが、まだ第1 コーナーをまわったところか。市民意識の向上を見定めつつ、引き続き多くの方法論の開発と経験の積み重ねが必要である。*2

 一方で、住環境に対する意識の高いエンドユーザー、即ち市民を育てていくことも並行した大きな課題であろう。〈受信機〉(例えば行政・専門家)と〈発信機〉(例えば市民)の両方が同じ周波数でなければ、良いメロディーは聞こえてこない。特に、公共性にめ ざめ、多感な世代である中学・高校生に対する環境・まちづくり教育のあり方は、もっと研究されてよいと考えている。5年程前に大阪府豊中市に筆者が提案した〈中学・高校生のためのまちづくり講座〉は、まちづくり支援課の並々ならぬ御努力により、4年の活動実績を重ねつつある。講座の切り口は毎年趣向を凝らしつつ、ノウハウを開拓(今年度はビデオ制作の手法を導入)されているとともに、総合的学習の一環として取り扱うなど教育現場との連携も徐々にではあるが進展しているようであり、今後が期待される。

 ところで、前出のテーマは、対象地区によって当然微妙にその内容が変容する。典型的課題について、述べてみる。まず、大都市中心部については、住機能を核として、商業・業務・文化等の機能をどう混合し事業として組み立てていくかが課題である。又、都市での小規模でもユニークな活動(例えば経済的活動、文化的活動)をいかに顕在化させ、再開発等に結びつけ、都市の個性を創出していくかなどの課題もある。さらに木造密集市街地における老朽住宅の建替も、残されてきた大きな課題である。郊外部においては、人口激減地域と、逆に安定あるいは人口増加をみる地域に明確に分離していくものと予想される。ここでは都市のストックを生かしつつ自立した、個性ある都市像の確立が課題となろう。その中間地域は、車社会がもうしばらくは続くと思われることから、引き続き流通資本等のかっこうの標的となり続けるであろう。住機能と流通資本等との適切な共存のあり方を模索しつつ、魅力ある都市像の形成が課題となる。郊外部、中間地域に多く見られる古い団地・マンション群の居住環境再構築(含、全面建替)も大きな課題である。

 以上のような諸課題を、先に述べたように、市民サイドの意思を反映させつつ、専門家として創造的に解決し、生命力あふれる都市像を提案していくことが、少なくとも21世紀前半の都市計画に求められるであろうし、私自身の最大の関心事のひとつでもある。

  • *1 …三好庸隆「デジタル・アーバンデザイン――ネット社会のまちづくりイメージ」『第9 回都市環境デザインフォーラム・関西』2000年11月
  • *2 …三好庸隆『<まちづくり>への新発想』建築資料研究社、1998年7月



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