2002/1 No.16 日本都市計画学会 関西支部だより

特集
21世紀のまちづくりシステムは実現するか

久  隆浩  近畿大学


時代は動き出した
 新世紀の到来といわれて1年が経過した。ニューヨークのテロをはじめとして重苦しい世紀のはじまり方であったが、時代は着々と変わりつつある感じがある。国の来年度予算をみても、国土交通省がNPOのまちづくりに支援をはじめることになり、まちづくりのパートナーとして住民やNPOと協働体制をとりつつある。一方、住民のほうも、地域を見直す人々が着々と増加しており、とくにここ2年ほどのまちづくり活動をみると30歳代、40歳代の男性の参加が増えつつある。少々語弊のある言い方だが、従来は高齢退職者や主婦といった時間的にゆとりのある人々がまちづくり活動を支えてきたことが多かったが、近年は自らの生き方として地域貢献や社会貢献を大切にする、そのためには生活資金を稼ぐだけの仕事よりまちづくりだと思う人が増え出したということである。そして、まちづくりや社会貢献がなりわいとなることができれば、二足のわらじをはく必要はなくなる、そのためにNPOやコミュニティ・ビジネスでがんばろう、という人々が出はじめてきた。
 しかし、時代はまだまだ転換期の最中であり、従来型のシステムが完全に転換したわけではない。だから、地域で生きていきたい、生活の糧も得たい、と思ってもそれを実現している人は少数であり、リスクが大きいのが実情であろう。地域に根づいたまちづくり、それを支える人材を確保するためには、社会システムの変革が求められるが、それと同時に私たちひとりひとりの意識と行動が大切である。私はまちづくり講座のなかで受講生に対してこういう話をしている。「みなさんは地域のまちづくりでがんばりたいと思っておられると思いますが、まわりにもたくさん地域に貢献したいと思っておられる方がいます。たとえば、地元の商店街の方々。全国展開を図る大型スーパーで買い物をするのと、小さな商店で買い物をするのとどちらが地域のためでしょうか。そうした消費行動もじつはまちづくりと密接に関わっているのです。」

支えあいが地域社会を変える
 この話をあえて出すのは、地域まちづくりに関わっている、あるいはこれから関わろうという意識のある人でさえ、生活行為全般でまちを支えていこう、という人が限られているからである。きつい評価をすれば、市民活動を展開している人が集まる話合いは、対話ではなく、主張のしあいに終始することが少なくない。私たちはこれだけがんばっている、こんな支援がほしい、そんな話が多く、他の参加者に対して自分たちがどんな協力ができるのか、そうした話が出てくることはまだまだ少ない気がする。多くの人々が支えあいの気持ちを持ち、そして協働の活動を積み重ねるようになればおのずと社会は変わっていくはずである。
 その典型例がイタリアであろう。パットナムはイタリアの各都市の詳細なデータ分析にもとづき、成功した政府と失敗した政府のあいだにある決定的な違いを発見した。それは、強く活動的な市民社会があるかどうか、具体的には「投票率や新聞購読率、合唱団、文芸クラブ、ライオンズクラブ、サッカークラブへの参加率」が高いかどうかという点であった。これらの率が高い地域では、社会資本が高度に発達しており、市場の外のネットワークが豊かであればあるほど、信頼感と助け合いの精神が広がり、有効な人間関係が機能するのだ、と彼は述べている。パットナムのいう社会資本は、地域にある人材資源やそのネットワークが基本になっているものである。

プラットフォームの重要性
 ネットワークの形成にはプラットフォームの存在が重要な鍵を握っている。そこにさまざまな情報が持ち込まれ情報交換ができれば、おのずと協働活動が形成されていく。市民活動や地域まちづくりの活性化をインターネットの普及が支えているのは、こうしたプラットフォームの重要性を説明する好例である。インターネットを通じて多くの情報を収集できる、また、自らの主張も世界中に発信できるからこそ、多くの同志が得られる。ひとりの市民がこんな便利な道具を手に入れられたからこそ、社会は情報社会、ネットワーク社会へと変化していっているのである。地域まちづくりのためのプラットフォームづくりとして、いま八尾市で「まちづくりラウンドテーブル」という試みがなされているが、この点に関しては『都市計画』234号の拙稿で触れているので、関心のある方は参照してほしい。
 プラットフォームはあくまでも情報交流の「場」であり、こうした場の存在があれば自ずとさまざまな活動が生まれてくる。こうした「場」の存在と複数主体による協働の創造的行為である「共創」の関係について清水博は、『場と共創』のなかでつぎのように述べている。「多様な人々が集まって、共創することができるためには、それぞれの間の差異をこえて、活動全体を包摂することができる大きい場所−共創の舞台−が創出されることが必要である。逆に言えば、このような場所を創出する創造力があるから、多様な考えの人々が一緒に働くことができるのである。」

コミュニケーション能力の醸成
 また、共創が成り立つ条件として、清水は、「共創は、多くの(複数の)人々が共同体意識に基づいておこなう知恵を発揮し創出をする、そして相互否定の形で創造に必要な自己否定をおこなうことを通じて、全員が精神的にも高揚して、大きな創造的活動力を発揮するのである。このことがうまく進むためには、個々人は誇りと自己を越えるところに大きな使命感をもち、志を立てていなければならない。この使命感こそが相互批判を受け入れることを可能にするのである。そのためにも共創の場では各人は本質的に平等でなければならない。共創には、自由な雰囲気が必要である。また自由の他にも、創造を鼓舞する精神的雰囲気がなければならない」と述べている。
 場の存在を生かし、そこから協働活動を生み出すには自己否定を含めた一定のコミュニケーション能力を持った人々の存在、そしてその能力を引き出すしかけが重要である、という指摘である。同様の指摘を、高木晴夫は『マルチメディア時代の人間と社会』のなかで次のように述べている。「ネットワーク組織が真に機能を発揮するためには、自律性の高い人々がいると同時に、彼ら自身が協働活動に必要なコミュニケーション能力を持っていなければならない。お互いに情報を交換し合い、自己の考えを主張しつつ課題解決に向けて意識を統一すること。そして革新的な方法をともに工夫して、創造的解決をめざすこと。どんなに自律性が高くても、このような意味による<協働活動のための創造的コミュニケーション能力>がなければネットワーク型の組織では仕事ができない。このコミュニケーション能力の本質は、自分の考えや立場の<枠組み>はどのようであり、相手のそれはどのようであるのかを、相互に認識できることである。さらに、お互いの枠組みから一歩離れてもっと意味のある枠組みを相互の協力で新たに創造することである。」
 プラットフォームの形成とそこでの対話を通じたコミュニケーション能力の醸成、そして、そこから生み出されるネットワークと協働活動、こうした条件整備にはまだ若干の時間が必要かもしれない。しかし、各地の先進的取り組みで徐々に花は開花しつつある。こうした動きの輪のなかに、できるだけ多くの人々の参画を期待したい。



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