2002/1 No.16 日本都市計画学会 関西支部だより

特集
「利害調整」から「価値共有」のまちづくりへ
−京都・地域共生土地利用検討会の経験を通じて−

高田 光雄  京都大学


 京都の都心部では、主として新たな集合住宅建設によって、歴史的に形成、継承されてきた集住秩序が急速に崩壊しつつある。それは、景観破壊として表れているために誰にでも容易に、かつはっきりと認識することができる。また、これに伴って建築紛争も多発している。そのため、景観問題が、あたかも既存町家の住民と集合住宅の建築主の利害をめぐる争いであるかのような誤解も深まっている。

 景観問題は、個人と個人の「利害調整」問題などでは決してない。それは、本質的には、個々の敷地や建築がCommonsとしての「まち」の構成要素であるという認識を基本とした「価値共有」問題である、と考えなければならない。事実、「利害調整」に終始して問題を解決しようとした取り組みのほとんどは成功しなかっただけでなく、地域住民同士の人間関係に亀裂が生じるなど、様々な後遺症を残してきた。また、新たな集合住宅の入居者と既存の住民とのコミュニティ問題も浮上してきている。

 住民と企業が「利害調整」を超えて「価値共有」の「まちづくり」に取り組んできた事例がないわけではない。例えば、2001年9月に京都市中京区で着工した「(仮称)アーバネックス中京」。このプロジェクトも、当初は、分譲集合住宅建設をめぐる紛争が発端であった。しかし、住民は、単なる反対運動が必ずしもいい結果をもたらさないことに気付き、専門家の支援を得て「姉小路界隈を考える会」を設立、文化的活動を展開しながら住民自らが「まち」の資源を知るための取り組みを開始した。当初の計画は、やがて、異例の白紙撤回という結果となったが、会の活動は拡大され、積極的な文化情報発信も行われるようになった。一方、1997年、(財)京都市景観・まちづくりセンターの設立後、同センターが事務局となり、白紙撤回となった土地利用について、賃貸物件として検討を再開する動きが生まれ、住民、企業、行政のパートナーシップのまちづくりにつながる「地域共生の土地利用検討会」が1999年1月に発足した。検討会には、地元各町内会、市民団体、事業主、まちづくりセンター、まちづくり専門家などが参加し、私は縁あってその座長を引き受けることになった。

 検討会では、「長期的に地域社会に受け入れられる事業であること」、「事業主の採算がとれる事業であること」という二点を前提に、2000年12月まで24ヶ月にわたる議論を重ね、土地利用基本計画を策定した。まち歩きやワークショップなどを通じて、地域資源の発見を行い、「まち」の将来像と土地利用イメージの議論をする共通の基盤を作った上で、建築形態、入居者像、施設の機能の検討に進み、計画を具体化していった。

 形態の検討では、スケルトン・インフィル方式を前提に、「まちのかたち」に合致したスケルトンのあり方を議論した。当初は高さを低くすることに議論が集中したが、最終的には、まちの空間秩序の継承に重点を置いた形態が選択された。入居者像の検討では、まちなか住まいの希望者を募って地元住民との交流会を開き、まちづくりの視点からみた望まれる入居者像とその居住シナリオを作成した。機能の検討では、都心居住機能、地域産業支援機能、地域文化発信機能、交流機能などの必要性と可能性について議論した。

 このプロジェクトは、これからが本番となる。新たな入居者をむかえて、既存の住民とどのような関係を築くことができるのか、まちづくりをどのように展開していくことができるのかが見えなければ、プロジェクトの評価も定まらない。

 とはいえ、これまで、こうした建設的な議論ができたのは、分譲物件が賃貸物件に変更となり、事業採算が見込める容積率が指定一杯の400%ではなく、250%程度となったため、幸運にも「検討の余地」が生まれたことによる。その意味で、このプロジェクトは極めて特殊に見える。しかし、そのプロセスは、一般化すべき「まちづくり」そのものであったとは言えまいか。むしろ、これが特殊ではなくなる社会システムの構築が必要なのである。すなわち、現行法制度を見直し、たとえば、高度や容積率を一旦大幅に下げ、まちづくりの文脈に合致した計画のみにそれを超えることを認める、といった方法により、上記の「検討の余地」をつくり出す「価値共有型建築規制・誘導システム」を構築することを急がねばならない。

 また、「価値共有」を基調とするまちづくりを推進するためには、地域のまちづくり活動を継続的に支援するシステムづくりも重要となる。つまり、専門家の派遣やセミナー、ワークショップなどによる住民の意識向上、活動の支援、リーダーの育成などを内容とした「コミュニティ・エンパワーメント・プログラム」が不可欠となる。

 集住秩序と都市景観の破壊を食い止め、それらの再生を図っていくためには、「価値の共有」をめざした新たな建築規制・誘導システムの整備と強力なまちづくり支援システムの同時的実現が強く望まれるのである。




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