2002/1 No.16 日本都市計画学会 関西支部だより

特集
市民主体の交通社会実験

中川  大  京都大学


 交通社会実験は、市民が実際に体験することを通じながら新しい施策の立案に参画していくことができるようにするということに本来の意義があるのであるが、多くの場合、市民は受動的に参加するにとどまっているようである。そのため、問題解決に向けての意識が醸成されるというところまではつながりにくく、実験だけで終わってしまう事例が多いが、京都の都心部で行われている試みは少し面白い方向に進み始めている。

 社会実験として実施されたのは、都心交通の改善方策としての「100円循環バスの運行」と、都心エリアでの交通とまちづくりを一体的に考える「歩いて暮らせる街づくり」である。どちらも平成12年度に国の補助を得て、市の主導で始められたものであるが、実験の計画策定の段階から市民が参加したことによって様々な広がりをみせはじめている。

 100円循環バスでは、運行間隔や運行日の設定を変えて需要の動向などを探る実験が行われたが、それと並行して、商店街やNPOが中心となって様々な利用促進策を打ち出した。商店街の費用負担による無料乗車券の配布、懸賞付きキャンペーンの実施、街頭でのPR活動などのほか市民フォーラムの開催も行った。これらの活動は自然に「100円バス応援団」と呼ばれるようになり、そろいの応援団ジャンパーの製作なども行われた。それらの結果、100円循環バスの知名度も高まり、利用者数は活動開始前の一日平均約600人から、現在の一日平均約1000人へと大幅に増加している。また、需要の増加以上に重要なことは、その活動が都心部に位置する16の商店街のすべてが参加する活動に発展していることである。これらの商店街は、実験終了後も共同して「活性化委員会」を結成し、交通問題に限らず都心活性化のための様々な事業の実施に継続的に取り組んでいる。

 また、もう一方の「歩いて暮らせる街づくり」も、市民の主体的な活動につながった点が興味深い。市は、この事業の推進にあたって「歩いて暮らせる街づくり推進会議」を設立することとして市民から委員を公募し、応募した100人を超える市民全員を委員とした。その後の活動内容はすべてこの推進会議で話し合われ、結局、推進会議の主催で「まちなかを歩く日」という企画が実施された。1回目は2000年11月に行われ、京町家や染工房の公開、三条通の歩行者専用道路化、まちなかオリエンテーリングなどが実施された。「まちなかを歩く」というテーマに関連したものを、参加した町内会や商店街などが、自由に発案して実施するという方法がとられ、交通規制などを伴う交通実験としての性格を持つ一方で、都心住民が都心の良さを見直す機会ともなった。また、市民主体の取り組みであることが評価されて、2000年度の都市計画学会関西支部「関西まちづくり賞」にも選ばれている。さらに、その後も推進会議は継続的に活動し、2001年11月には2回目の「まちなかを歩く日」が実施された。2回目は補助事業としての位置付けがないにもかかわらず推進会議の意思によって開催されたものであり、オープンカフェの実施、商店街・NPOなどによる低公害低床バスの展示・試乗、路上駐輪対策の実験など、前年よりもさらに広がりをみせた。個別の内容はすべて市民の手で計画され、資金的にも自立して実施されている。市当局は、道路占用許可などのための調整や広報活動などを行っており、市民が主体的に実施して、行政が支援するという形が形成された。今後は、「歩いて暮らせる街づくり基本計画」の作成など、次を目指した活動が行われていくことになっている。

 交通問題はまちづくりにおいて重要な課題となることが多いが、これを市民の手で解決していこうとするのは難しい。道路などの公共空間において生じている問題がほとんであり、行政や警察に頼らなければいけない部分が多い。従って、多くの交通社会実験は行政主導で行われているが、一方では、交通のそもそもの主体は市民であり、行政や警察による対応には限界がある。交通問題は、市民の手によって解決できるものではないようではあるが、市民が動かずに解決できるものでもない。

 京都の社会実験が大きな成果につながるかどうかはまだこれからであるが、少なくとも参加者のなかでは、交通のことを市民の知恵で考えていこうという意識が醸成されてきている。市民が動けば良くなるということ、あるいは、市民が動かなければ良くならないということが、多くの人に理解されていくようになることも交通社会実験のひとつの大きな意義であると言えよう。




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