2002/1 No.16 日本都市計画学会 関西支部だより

特集
町家再生と町づくり

大谷 孝彦  京町家再生研究会


 近現代のハード面が先走りした価値原理は都市の持続性を断絶し、景観、コミュニティーなどを無秩序、混乱、破壊へと導いてしまった。「物理的な環境の破壊」と共に都市づくりの「精神的根拠の喪失」を招いている。改めて、秩序性と創造性、情緒性などのある都市の「再生」を目指しての町づくりを始める必要がある。「町づくり」は市民、住民の参加によって個別の課題から、あるいは、小さな地域から、ハードとしての形とともに人の係わりとしてのソフト面の大きい活動行為である。今後の都市計画は町づくり行為との総合性をより強く必要とするであろう。

 歴史的都市と言われるまでもなく、京都は自然、人工物、そして、人の暮らしを包括的に含む歴史性の上に形成されて来た。「歴史性」とは積み重ねられて来た時間の価値であり、それは京都の真実性、場所性となる。そして、今という現実の更なる継続によって新たな歴史が作り続けられて行く。その両方の意味において「歴史性」は人が生きることの根拠であり、人間存在は本質的に歴史的であると思われる。そして、「再生」とは「歴史性」の継承と新たな展開を同時に踏まえた持続的創造行為であり、都市づくりには持続的創造性が必要とされる。

 京都では個別の取り組みとして、まだ数多く残っている町家の再生活動がある。京都の町は町衆のくらしによって形成されて来た町であり、そのくらしの場が町家であった。又、歴史的木造建築である町家には棟梁を始め、多くの職人の技が営々と集積されてきた。町家あるいはその町並は京都という町に深く根付いたものであり、その歴史性を持続的に展開する「町家再生」は地域を越えて共有される町づくり行為である。

 町家の暮らしは職と住が共存し、コミュニティーを大切にした都心居住であり、自然、季節、そして、年中行事、祭りなどとの係わりが深い精神性、文化性のある暮らしを続けてきた。一方、職人の技は自然素材を知り尽くしてそれを生かし、又、美的なものの追求と同時に、古材の再利用など経済的合理性をも視野に置いた総合的な感性(バランス感覚)に裏付けられたものであった。さらに、職人の技と住人の暮らしはお互いの知恵と工夫が重なりあい、深く係わりを持って町家建物の中に一体化されており、さらに、職人の仕事は住人の暮らしの中に「お出入り」として組み入れられる「しくみ」を持っていた。そこには人と人、人と建物の間の「係わり」が強く存在していた。物、形として建物、くらし、自然を捉えるハードの視点とそれぞれの係わりを大切にして見るソフトの視点を併せ持っていた。町家の日常の暮らしの中にも「間合い」と言う係わりを重んじる感性があった。そして、そのような係わりの感性があったが故に総合性のある物の見方と仕組みを作ることが可能であったと言える。「係わり」と「総合性」の下に創り上げられた町家は洗練された意匠・空間を持っており、環境共生・資源循環型の建物が適正規模の美しい町並みを形成していた。

 我々が手掛けている再生事例に見えるのは、京町家の歴史性の重みが、それを意識する人達の思いによってその建物と暮らしを相互に結びながら生き生きと蘇らせる力を持っていると言えることである。これは町づくりの基本に通じるところであろう。本来町づくりにはハードとソフトの両面が必要であろうが、今後は係わりや総合性(バランス)と言うようなソフトの感性がより重要である。「町家の再生」はハードとしての直接的な景観的町づくりと共に、そのようなソフト面の再構築を目指すものである。「歴史性とその再生」を京都の持続的、創造的町づくりの精神的根拠、アイデンティティーの契機とすることができると思われる。

 このような京町家の再生には様々の技術的、社会的課題が残っている。「京町家再生研究会」は平成4年以来町家再生の実践、調査研究、情報発信の活動を行って来た。町家再生を京都の町に広める効果があったと思っている。平成11年には「京町家作事組」を、平成12年には「京町家友の会」を新たに結成した。作事組は京都の各種職方が集まって町家再生を活性化し、併せて、伝統的技術を継承し、生かす場を広げようとするものである。友の会は居住者を始め町家に興味をもつ人達に町家居住の理解と町家再生への関心を高めてもらうことを目的としたものである。三つの会の連係によって活動は効果的に実行されている。今後、伝統木造建築としての構造、防災の問題、町家流通システムの整備、町家の維持と活用の促進、などに早急に取組んで行く必要がある。他の市民活動グループ、行政との連係によって活動の成果の共有と効率的展開を図り、又、特定の地域に密着した再生活動を展開することによって、町家再生を、そしてそれを根拠とした町づくりをより具体的、積極的に進めていくことを目指している。又、京都における町家再生の主旨は様々な形で各地の町づくりに共有されるものと思われる。




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