2002/1 No.16 日本都市計画学会 関西支部だより

特集
ため池を守り、活かす地域づくり−大阪府オアシス構想のその後−

原田 弘之  樺n域計画建築研究所


 大阪府では10年程前から、ため池を地域における貴重な魅力資源として見直し、それを農家と地域住民による新しい地域コミュニティが、守り、活かす取り組みとして、「オアシス構想」を進めてきた。

 大阪府域のため池は、おもに、北摂、生駒、和泉山系の山々と、大阪市を中心に外延化した市街地にはさまれた農空間に分布しているが、もともと降雨量の少ない瀬戸内式気候のため農業用の貯水装置として作られ、現在も約11,200カ所存在する。

 農空間における都市化の進展や農業の衰退などにより、ため池の農業利水としての役割が低下する中で、担い手不足により、治水面も含む維持管理が不十分になりつつあった。また都市住民からは管理が行き届かないため池が邪魔者扱いされる傾向にあった。一方、都市に少ない水と緑の空間として利用したいというニーズも高まっていた。

 そこで大阪府は平成3年に、ため池を農業用施設として活かしつつ、都市生活に「やすらぎ」と「うるおい」を与えるため、魅力ある地域を構成する貴重な環境資源として総合的に整備し、府民とともに地域環境づくりを進めていくことを目標に「オアシス構想」を策定した。この構想の1つの柱は「農業・都市・自然の共生したため池づくり」で、自然環境の保全、快適環境の創造、安全なまちづくり、府民の楽しみ、農業振興、教育・文化の推進をため池で進めることである。もう1つの柱は、「共に守り、育てるため池文化の創造」で、具体的にはため池の整備計画づくりや維持管理活動など地域の幅広い環境づくりの推進母体として、農家等の水利組合、池周辺の住民等から構成される「ため池環境コミュニティ」の設立を提案している。この構想の策定は約10年前であるが、今や常識とも言える「共生」や「協働」「ストック活用」などの考え方が先取りされており、今でも色褪せてはいない。

 構想策定後、約30ヶ所のため池が整備され、約15ヶ所のため池で「ため池環境コミュニティ」が設立され、活動を行っている。平成12年度には、それらの推進母体が一同に会し「第1回ため池環境コミュニティ会議」が開催された。利用マナーの悪さや維持管理活動の大変さ、人材や資金不足などの窮状を訴える意見も見られたが、自然の保全や生き物の飼育、植物の栽培、学校との連携、行事開催など地域ならではの活用事例や自慢話も多く、「地域の宝物」を自ら育てていこうという気概が感じ取られた。その中で、熊取町長池地区の取り組みを紹介する。

 長池地区は約20年前に開発された住宅団地と農空間が接する地域で、平成6年度より老朽したため池のあり方について、大阪府と熊取町が、周辺住民と水利組合に呼び掛ける形で始まった。

 初期段階は、整備構想を検討する場としてワークショップを開催し、ため池の整備のあり方を詰めていった。その後、管理運営の方法や体制について検討を行う準備組織を経て、周辺自治会や水利組合から構成される管理組織として「長池オアシス管理会」を設立し、町と管理委託契約を結んだ。各主体が時間をかけてゆっくりと話し合い、行動を共にし、新しいコミュニティをつくっていったこともあり、主要メンバーの結束は固くなったが、メンバーの増員など管理会の拡充は完成後に委ねられた。

 平成12年度に完成、オープンしたため池のその後の利活用状況は、細かい問題はあるが、プラス面を中心に整理すると以下の通りである。ため池を周回する遊歩道やボードウォークを、周辺住民を中心とする人々が散歩やジョギングコースとして利用し、健康づくりや憩いの場となっている。1つのため池を埋めてつくった貸し農園(約120区画)の人気が高く、住民と農とのふれあい、農園コミュニティ形成の場になるとともに、ため池全体の維持管理費の貴重な財源として役立っている。浅瀬につくった水生植物帯は小学校の総合学習の場として活用され、教育面で役立っている。会議室やIT機器等も装備した管理棟は、維持管理のための集まり以外にも、地域での集会、環境学習の作業場などとして活用されている。周辺地域の行事として、ため池で年に1回お祭りを開催するようになり、地域の連帯感の形成に役立っている。

 「オアシス構想」の真価が問われるのは完成後である。時間をかけながら、地域の多様な人々の活動の場をつくり、それらをうまく結びつけ、全体として1つの仕組みに結実させることがポイントである。そのために必要なことは、全体をマネージメントする人材と、財政基盤である。特に後者については、ため池の公共財の面、地域利用という共有財の面、農業水利といった私有財の面を整理しながら、費用負担や資金調達の方法を具体的に検討する時期に来ている。




前ページ


16号・表紙


次ページ

Copyright(C)2002 (社)日本都市計画学会関西支部