神戸市新長田地区復興状況調査


目的:阪神・淡路大震災の復興都市計画において最大規模の事業を行った新長田市街地再開発地区について,25年が経過し,事業終了に向けて検証報告が行われつつある.大規模な都市復興事業における経験から何を教訓の知見として取り出すことができるのか,またこれまでの経緯をどのように検証しているのか,さらには神戸市において震災事業の経験情報がどのように伝達されているかについて,情報収集を行うことを目的として,担当者へのインタビュー調査および現地視察を行う.

日程:2020年1月20日(月)
訪問者:紅谷(兵庫県立大学)大平(兵庫県立大学)木作(人と防災未来センター)石原(龍谷大学)安永(大阪市)中舎(京都市)

神戸市インタビュー調査概要


日程:2020年1月20日 13:00-15:00
場所:神戸市役所長田別館
インタビュー先:神戸市都市局市街地整備部 担当者4名

※本調査に先立って、本特別委員会アドバイザーである中山久憲氏(神戸学院大学教授、元神戸市職員)からも助言を受けた。

▲インタビュー調査風景
▲インタビュー調査風景

新長田駅南地区復興市街地再開発事業の経緯

神戸市では、戦後に基盤整備できていないエリアを中心に、阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた。新長田周辺は、震災前はケミカルシューズ産業で栄えた産業の拠点で、権利が複雑な木造密集市街地が広がっており、地震当時はインナーシティ問題が顕在化していた。また、当時、地下鉄海岸線の計画に着手しており、新長田駅南の第一種市街地再開発事業の権利変換を終え、二号線南部の地域でも再開発の勉強会が始まろうとしていた。 阪神・淡路大震災によって、新長田駅南地区は全半壊焼失約83%という大きな被害を受け、被災者の生活再建と基盤整備のため、市街地再開発事業を実施することとした。震災から1か月後にまちづくり協議会が設置され、協議会が権利者の連絡網を整備し、遠方の被災者に対しても連絡をとれる体制を築いた。 阪神・淡路大震災当時、大規模災害の生活再建・復興に適した既存の仕組みがなかった。地域で生業をしながら仮住まいできる仕組みがなかった。まちづくり協議会の仕組みによって住民が参画しながら復興事業を進め、再開発事業区域内に仮設店舗(パラール)や事業用仮設住宅が建設された。仮設店舗は、地域の協議会主導で進められ、後に市が買い取った。さらに被災商業者の再建が早く進むように、商業棟を先行してつくっていった。 仮設住宅での暮らしが早期に終わるように、早期に受皿住宅(事業区域内639戸)を建設し、震災後3年で従前権利者向けの住宅を供給した。さらに特定建設者制度という民間事業者に建物を建設してもらう仕組みを積極的に取り入れ、分譲住宅、高齢者賃貸住宅、ホテルなどを整備していった。当初の住宅戸数は2,700戸の計画であったが、現在は2,800戸となっている。平成15年度には従前の戸数(約1,500戸)を上回る住宅が供給された。現時点で若松7工区は事業者未決定となっているが、駒ヶ林中学校にプールがなかったため、区域除外して学校のプールを整備することを検討している。

再開発事業における課題

この地域では産業・生業の復興が重要であり、商店街の高度化事業や共同化事業の取り組みを検討していったが、リーマンショック以降、物販系の商業が厳しくなってきて、購買力が低下し、撤退する区画が増えるようになった。現在まで、まちの回遊性を高める仕組みづくりや、商業者と一緒になってまちの賑わいづくりに取り組んでいる。まちづくり協議会から温泉を活用してまちづくりを進めることが提案され、足湯が設けられた。また、県・市のトップレベルの判断で、連携して合同庁舎を建設し、県・市の組織の一部を移転することが決められた。 住宅については、従前を超える戸数を供給しており、地域の人口増につながっている。再開発区域の住民は、長田区内からの移転者が当然多いが、長田より西の地域からの需要も多い。若い世代を中心にまちのイメージが変わって、居住地として新長田を評価してもらえるようになった。

市街地再開発事業の有効性や制度の限界

復興において再開発事業を進める際には、生活再建のメニューを重ねていくこと、受皿住宅を考慮して整備すること、福祉や産業部局などと連携すること、が大切である。 新長田駅南地区は、商業者や住民が地区外に転出するのではなく、地区内に留まってもらおうという想いがあったため、市街地再開発事業を行った。当初は、元の地区に残りたいという権利者全てに対応する計画となっていたが、事業が進むにつれて再開発ビルに戻らない事業者も出てきている。結果として、市が保留床を多く抱え地価も下落しているため、収支は赤字となっている。

被災地復興の経験・教訓の継承

神戸市では、職員を対象とした研修を通して震災の教訓や経験談を伝えている。また、職員が退職する前に、震災について話をしてもらう機会を設けており、新規採用職員が上司に震災の経験談を聞き取る活動も行っている。また、神戸市から被災自治体に災害派遣する際には、危険度判定、応急修理、公営住宅などの事業の進め方を若手に学んでもらうことを企図している。 今後は、国の災害支援のあり様も変わってきて、復興メニューも変わってくるはずである。自力再建ができない人の復興を進めるのはとても難しい。行政職員として、災害後に復興をどう進めるのか、まちの自力更新力の視点で日頃から捉えておく必要があるだろう。


※なお、本調査の終了後、神戸市は新長田駅南地区の再開発事業の検証をはじめ、2021年1月に「新長田駅南地区震災復興第二種市街地再開発事業検証報告書」を公開している。 参照


現地視察調査概要

1.新長田駅北地区の復興状況

JR新長田駅北側に拡がる42.6haの地区。震災前は、商業・業務施設やケミカルシューズ等の工場と狭小住宅等が立地する住商工混在地域で、震災により建物の約8割が被害を受けた。震災後震災復興土地区画整理事業を実施し、居住機能や商業・業務機能、生産機能の計画的な配置により、早期復興と住宅供給が実現した。平成23年に事業は終了している。 同地区はまちづくり協議会をはじめとした住民らによるワークショップを通じて計画がなされ、街区や広幅員の歩道、公園等が整備され、災害に強い安心・安全なまちづくりの整備がなされ、現在も活用されている状況にある。

インタビュー調査風景

水笠通公園

平成21年に完成した約1haの防災公園。かつての水笠通2丁目がまるごと公園区画となった。最終の整備が行われるまで「いっとき公園」として地元住民により花壇など作られ、憩いの場を形成していた。整備に反対する動きもあったが、耐震性防火水槽も備え水景施設に取り囲まれた開放的な公園は、災害に強い町の顔として、周辺集合住宅に住む多くの子どもたちでにぎわっている。

インタビュー調査風景

広幅員道路

季節による影響もあるが、片側街路樹のない歩道は殺風景な印象が否めない。

インタビュー調査風景

せせらぎ通り

平成19年に整備された水笠通公園からコミュニティ道路へと流れ、まちのシンボルとして親しまれる水景施設。まちづくり協議会が中心となり維持管理やイベント、緑化活動などに取り組んでおり、完成後20年以上経過しても日常管理が維持されている印象。

インタビュー調査風景


2.新長田駅南地区の復興状況

新長田駅周辺は、1965 年神戸市総合基本計画において「西部副都心」と位置づけられながらも、都市機能や産業機能の更新遅れや老朽化が目立ち、人口減少や高齢化等のインナーシティ問題を抱える地区であった。震災で約8割の建物が全半壊・消失し、死者は49人という大きな被害を受けた。市は同地区19.9haを早期生活再建と災害に強い安全・安心のまちづくりの目的に加え、副都心にふさわしいまちづくりとして都市機能の集積を実施することを目的に、震災後わずか2カ月後に震災復興第二種市街地再開発事業を都市計画決定し事業を進めた。

インタビュー調査風景
神戸市HP:事業の進捗状況について【令和2年6月現在】

早期事業決定と、狭小な敷地を共同化し高度利用することにより公共施設用地とする手法により、住宅・商も震災後3年供給開始された。道路、公園などの都市基盤と再開発ビルの整備、住宅・商業のみならず多様な都市機能集積を図り、災害に強い新しい町として生まれ変わった。しかしながら、地下、地上1,2階におよぶ3層ネットワークを基本とした全国的に例が少ない大規模な再開発事業となり、事業期間が長期化し社会経済情勢の影響を受け、商業床に余剰が発生しにぎわいの回復や事業の収支差に課題を有した。 また、同地区では地域活性化のため、神戸出身の漫画家・横山光輝氏の漫画のキャラクターを生かした取組が進められた。NPO法人神戸鉄人プロジェクトが、若松公園に隣接した広場に鉄人28号のモニュメントを2009年に設置した。また商店街の中には、漫画「三国志」の登場人物の石像などが展示されている。

若松公園

「鉄人28号」の巨大モニュメントが人目をひく震災復興と地域活性化のシンボルとなる約1.6haの公園。モニュメント広場と公園空間がデザイン的な一体感が感じられない不思議な空間となっている。地区全体としては、ほかに3カ所の小規模な公園が存在するが、開発規模や建物のボリュームに対して公園緑地や公開空地の面積が少ない印象がある。

インタビュー調査風景

アスタ新長田

西の副都心にふさわしい賑わいと活気のあるまちづくりを目的として、地下鉄西神山手線・海岸線「新長田」駅、地下鉄海岸線「駒ヶ林」駅、JR神戸線「新長田」駅の3線3駅をネットワークさせたプロムナード空間。メインとなる商業軸では、各街区の地下1階、地上1階・2階の三層のレベルで歩行者動線が確保され、買い物しながら回遊できるようになっている。

インタビュー調査風景
神戸市都市計画総局<新長田駅南地区震災復興第二種市街地再開発事業>アスタ新長田のご案内より
▲アスタくにづか1F
▲横山光輝「三国志」にちなんだ石像

ふれあい足湯アスタ

再開発計画の中で、地元からの提案を受けて、地域の憩い・賑わいの場として温泉による足湯が設置された。平成2016年から休止していたが、2019年6月にリニューアルし、再開した。

インタビュー調査風景

アスタ新長田の空き店舗

1Fの商店街は、空き店舗も少なく、賑わっているが、駅から離れた街区の地下階や上層階では歩行者の分散により空き店舗となっている区画も多く見られた。

▲アスタくにづかの上層階や地階には空きスペースがみられる

新長田合同庁舎

2015年、兵庫県・神戸市が共同で新長田駅南地区に各関係機関を移転することが決定された。合同庁舎が2019年に整備され、兵庫県神戸生活創造センター、兵庫県住宅供給公社神戸事務所、兵庫県神戸県税事務所、県民交流室、神戸市行財政局税務部、一般財団法人神戸すまいまちづくり公社が移転してきた。約1,050名の職員が働いており、地域の商業需要の喚起や賑わい創出が期待されている。

インタビュー調査風景
▲2019年に整備された新長田合同庁舎

再開発ビル群

いかなごのくぎ煮発祥の地も近い下町らしい駒ケ林町方面から再開発地区を望む。高層マンション建設等により住宅戸数は震災前の1.9倍、夜間人口は約 1.4倍に増加した。

▲再開発地区を南側(海側)から望む

六間道商店街

再開発地区の南側、震災時の火災から免れたことから震災前の面影を残す商店街。鉄人28号に合わせて横山光輝の代表作「三国志」をテーマにしたギャラリーなどが点在する。高層ビルが林立する再開発地域とは対照的に、再開発事業区域の周りは震災前からの商店街や住宅地が広がっている。

インタビュー調査風景
▲六間道商店街(左側は再開発地区内、右側は地区外)

担当者まとめ

新長田駅北地区・駅南地区ともに、都市基盤として広幅員道路や公園が整備され、建物の耐震・耐火性が備えられ、夜間人口の回復もみられ、災害に強いまちの早期生活再建はなされたことが確認された。また、駅南地区では共同仮設店舗「パラール」の営業再開がその後の商業再建につながったことから、協議会主導で進められたことの重要性を感じた。しかしながら、現地視察では駅南地区の歩行者3層ネットワークによる再開発ビルにおける市保留床の入居率等、商業の活性化やまちの賑わい創出において課題を有している実態も確認できた。事業の長期化による社会経済状況の変化など、事業計画の難しさを改めて感じるとともに、どの時点で復興を評価すべきか示唆深い視察となった。「新長田駅南地区震災復興第二種市街地再開発事業検証報告書」においても、検証から見えてきた教訓と今後の方向性が示されており、これらの知見が神戸市や他都市の復興においてどのように活かされ、当該地区がどのように変容を遂げていくのか、引き続き注視したいと考える。

 (文責:大平)